PCをベースとしたSDRトランシーバは様々なS/Wを使用でき、PCの柔軟性のメリットを大きく生かせます。
しかし一方音声の時間遅れや、Windowsの様々なバージョンやその更新に悩ませられます。
受信は異変が起こっても自分で分かりますが、送信はとんでもない電波を発射してしまうリスクがあります。(実際に経験))
そこで、この送信部分をPCから切り離し、PSNを使ったSSB送信機を自作しました。
左図がその送信機です。 最終的にはパネルをつけましたが、電源S/Wと出力の調整VRだけで、ダイヤル
などは一切ありません。 システムは別ページで紹介した SoftRock のSDRインターフェイス基板を使用し、受信は通常の使い方とし、送信を、以下のようにしました。
PCからのI/Q信号(PCのLineOut)を外し、マイクからのオーディオ周波数信号
から90度位相が違う2つの信号(I,Q信号)を発生させ、これを SoftRockの入力に入れました。 この位相変換がPSN(Phase Shift Network)
と呼ばれます。 これがキャリア周波数と混合され、SSB信号となります。 このキャリヤは受信に使うSDRのS/Wで決まります。 その関係で送信時搬送波周波数を局部発振とする必要があります。(S/Wに依存なので注意) PoweSDRが最適です。
その様子をブロック図で示します。 マイクからの信号は プリアンプを通って(不要だったかも)JRCのALC機能付のマイクアンプNM32783に入り,
最大出力1Vに
調整されます。RFのALCを付けないので、ここでのALCは必須とも言えます。 快適に動作してくれます。 その後にハイパスフィルタを入れ500Hz以下を減衰させています。 この定数は声の質によると考えます。 市販のトランシーバなら設定ツマミ等が必要でしょうが、自分専用なので、基板上で簡単に変更できるだけとしました。
次のSCF(スッチトキャパシタフィルタ)MAX7403 で急峻なフィルタを実現しています。 このコーナ周波数はクロック入力周波数で決まり、そのために555発信器があります。 設定は2.85KHzとしてあります。(可変) ここからの信号は2つに別れ、最終的に90度位相が異なる、所謂 I,Q信号とならなくてはなりません。 しかし音声領域の全ての信号の周波数成分に対して正確に90度違いの信号を作るオールパスフィルタは、その精度によって困難さが違います。これによってSSBの逆サイドの抑圧が決まります。 0.1度以内で約55dBとなり、ここが目安です。
オールパスフィルタに使われるOPアンプを使った移相回路には図のようなものです。
ここでR2=R3 とし、CとR1のインピーダンスが等しい周波数で90度の位相回転が起こります。 これをポール周波数と呼びます。 この回路をいくつか組み合わせるのですが、今回ブロック図のように4つのOPアンプを2列としました。 これで各々のポール周波数を最適にセットすることで100Hz程度から3KHzまでを90度違う2つの信号を作ることになります。
この周波数の決定のため位相の変化をエクセルで計算し、グラフとしました。 グラフは縦軸の0点が90度となり、単位は 度です。 横軸が周波数で100Hz〜3000Hzですが、Logとなっているので、適当な間隔で数値(周波数)が表示されています。
当初いろいろな方の製作記事からポール周波数を設定したのですが、なぜかずいぶんずれてしまっていました。
そこでマクロプログラムで最適を割り出す方法もありますが、手っ取り早く、手作業で少しずつ
ポール周波数を変えながら この程度かなと思われるポイントを探してみました。
それが、この表です。 ポール周波数の設定は表の左上です。 これで0.1度以内に収まっています。
この表の元のエクセルファイルから詳細を確認ください。
また、実際の回路図はここを参照ください。
ポール周波数を変更する作業はまるでバーチャルでポテンショメータを動かしている感じで、少し変えると、色々な
部分に影響が出て、これは大変だろうと感じました。
ポールの周波数の調整は、JA1VCW さんが書かれた資料にうまい方法が載っていたので、これを参考にしました。
これは各段のOPアンプ入力の抵抗R2をグランドに落とし、信号の入力をコンデンサだけを通してOPアンプに入れます。
この時、周波数が非常に高くコンデンサのインピーダンスが0なら、アンプの出力は2倍となります。
そしてインピーダンスが上がれば、増幅率は低下し、あるところで1:1と入力と出力が一致する周波数があります。
この点がポール周波数の1/√3 となります。
周波数設定のためのオーディオ信号入力はPCのSGソフト WaveGeneを使いました。設定周波数Hzの単位は小数点以下が必須で、回路での実現は難しく、このS/Wが威力を発揮しました。
総合チェックは、このSGソフトからホワイトノイズを入れ、SoftRockの基板上のRFミクサを通して、別のSDRで、SSB逆サイドのイメージをチェックしましたが、
抑圧は50dB以上は取れており、結局8個のOPアンプ回路の調整VRは上記の個別調整だけで終えることにしました。
この時SoftRockへの入力レベルは最大2Vとなるのが注意点です。
その後、回路図のようにマイクアンプ等を整備し、150Wリニアに入れ、On Air しています。各局からのレポートからは、不都合はないとのことです。